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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8348号 判決

(昭和四七年(ワ)第八三四八号、同五一年(ワ)第五三二一号)

原告

藤井義夫

(昭和四七年(ワ)第八三四八号)

原告

藤井洋一

原告両名訴訟代理人

高谷圭一

(昭和四七年(ワ)第八三四八号、同五一年(ワ)第五三二一号)

被告

新宿活字株式会社

右代表者

藤井利基

右訴訟代理人

隈元孝道

大平恵吾

主文

一  原告藤井義夫と被告との間において、同原告が被告の株式一〇〇〇株の株主であることを確認する。

二  被告の昭和五一年六月二九日開催の定時株主総会における別紙決議目録記載の各決議が存在しないことを確認する。

三  原告藤井義夫のその余の請求及び原告藤井洋一の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告藤井義夫と被告との間においては、同原告に生じた費用の五分の三を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告藤井洋一と被告との間においては全部同原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一〈省略〉

二1(一) 請求原因2(一)の事実のうち、被告会社が昭和三三年一月二八日に本件増資をしたこと、本件新株は別紙1の(2)(A)欄記載の者が同欄記載の株式数により引受けたこと及び訴外利基が右の引受けた新株式一六〇〇株について株式払込金の払込を了したことは当事者間に争いがない。

(二) 原告らは、本件新株を引受けた別表1の(2)(A)欄記載の者のうち前記のとおり株式払込金の払込をしたことについて当事者間に争いのない訴外利基以外の者もすべて払込期日までに払込を了した旨主張するが、〈中略〉右主張を認めるに足りる証拠はない。〈中略〉

却つて、〈証拠〉によると、被告会社の本件増資は、被告会社の親会社にあたる訴外東京活字興業株式会社(以下「訴外会社」という。)の代表取締役である訴外勇の発意で行われ、実際の事務的な諸手続は、訴外会社に当時勤務していた訴外的場が、訴外勇の指示に従つて行つたこと、本件新株の割当についても、すべて訴外勇の指示により決定し、本件新株は訴外三太夫、同高次、同勇、同木材及び同的場に割当てられ、右五名は、別表1の(2)(A)欄記載の名義で同記載の株式を引受けたことの各事実が認められる(別表1の(2)(A)欄記載の名義の者が同記載の株式を引受けたことについては、当事者間に争いがない。)。そして、〈証拠〉によると、被告会社は、本件増資の前年である昭和三二年の夏に訴外武蔵野信用金庫本店から計一〇〇万円(同年八月一七日に四〇万円、同月一九日六〇万円)、平和相互銀行赤羽支店から一〇〇万円(同月一九日)の合計二〇〇万円を被告会社の運転資金として借入れたこと、被告会社においては、本件新株の払込期日である昭和三三年一月二八日ころ、右借入金の弁済資金として二〇〇万円の現金を社内に留保していたところ、訴外的場は、同日ころ右二〇〇万円を本件新株の払込銀行である訴外武蔵野信用金庫本店に持参して払込金として右別表1の(2)(A)欄記載の名義で預託したが、昭和三三年一月二八日に本件増資の変更登記手続が完了すると、数日後には預託した右払込金を受戻して、前記武蔵野信用金庫本店及び平和相互銀行赤羽支店からの借入金の弁済に充てたことの各事実が認められる。

右認定の各事実によると、訴外三太夫、同高次、同勇、同木村及び同的場が別表1の(2)(A)欄記載の名義で引受けた本件新株のうち、訴外利基が払込を了したことについて当事者間に争いのない一六〇〇株を除くその余の三万八四〇〇株については、形式的には払込期日までに株式払込金の払込がなされたとの外形的な事実があるものの、実質的には資本の充実を欠き、その払込があつたということはできないといわなければならない。したがつて、右の三万八四〇〇株について、別表1の(2)(A)欄記載の名義(訴外利基を除く。)で引受けた訴外三太夫ほか四名の引受人は、右払込期日経過と共に商法二八〇条の九第二項により失権し、その引受は無効となつたものと解するのが相当である。

2 〈省略〉

3 〈省略〉

三1  〈省略〉

四〈省略〉

五そこで進んで抗弁2について判断する。

1  〈証拠〉によれば、被告会社は昭和五一年六月二九日住友ビル別館において本件総会を開催したが、本件総会には合計五万株の株式を有する株主が出席して出席株主全員の賛成により本件決議をした旨の定時株主総会議事録が作成されていることを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  本件決議不存在確認請求の主要な争点は、結局、被告会社が、本件総会において、本件新株四万株全部について訴外利基の議決権行使を認めたことが違法であるかどうかにあるので、この点についてまず審究することとする。

(一)  被告会社は、第一に、本件新株のうち訴外利基が払込をした一六〇〇株を除く三万八四〇〇株については払込期日までに払込がなく、右新株の引受人はいずれも失権したので、訴外利基は昭和四七年二月ころ右の失権株全部について引受をし、次いで同年六月二四日右失権全部の株式払込金一九二万円を払込んだから、同訴外人は右の三万八四〇〇株の株主となり、結局、本件新株四万株全部は同訴外人に帰属した旨主張する。なるほど、右の三万八四〇〇株について有効な払込があつたと認めることができないことは既に説示したとおりである。しかしながら、本件増資については昭和三三年一月二八日その旨の変更登記を経由していることも既に認定したとおりであり、そうだとすると、本件新株のうち三万八四〇〇株については払込期日までに払込がないにもかかわらず発行済として登記されたことになるわけであるが、商法二八〇条ノ一三第一項にいわゆる引受のない株式には引受人の払込がなかつたため失権した株式も含まれると解されるから、結局右の三万八四〇〇株は引受未済の株式として前記変更登記当時の取締役(成立に争いのない甲第三号証によれば、原告義夫、訴外利基及び同山香哲雄の三名と認められる。)が共同して引受けたものとみなされ、第三者又は取締役が単独で引受をする余地はないといわなければならない。したがつて、右の三万八四〇〇株について訴外利基が単独でその引受及び払込をしたという被告会社の右主張は採用し難い。

(二)  次に、被告会社は、仮に右の主張が理由がなく、本件新株のうち払込のなかつた三万八四〇〇株については取締役が共同して引受けたものとみなされるとしても、株主となるのは右の取締役のうち現実に引受株式の株式払込金払込義務を履行した者であると解すべきところ、訴外利基は昭和四七年六月二四日右の新株三万八四〇〇株全部の株式払込金一九二万円を払込んだから、同訴外人は右の三万八四〇〇株の株主となつた旨主張する。しかしながら、新株発行による変更登記後に引受未済(払込未済の場合を含む。)の株式があるときは、取締役は共同してこれを引受けたものとみなされ、その結果当然に取締役は株主となり、引受に基づく株式払込金の払込義務を連帯して負担するに至るのであつて、仮に共同して引受をした取締役の一人が引受未済の株式の株式払込金全額の払込義務を履行したとしても、そのことは単に共同引受をした取締役が負担している連帯債務の履行を単独でしたにすぎず、これにより共同引受が単独引受に変更される筋合のものではないから、払込義務を履行した取締役が他の取締役に対して求償権を取得することがあるのは格別、そのことにより引受未済の株式全部について単独の株主となると解すべき理由はないといわなければならない。したがつて、被告会社の右主張も失当というべきである。

(三)  〈省略〉

3  以上のとおり、本件新株四万株のうち三万八四〇〇株については、その株主が訴外利基である旨又は右株式について同訴外人が適法に議決権を行使しうる立場にあるとの被告会社の主張はすべて理由がない。したがつて、前記認定のとおり右の三万八四〇〇株の株式は、本件増資の変更登記当時の被告会社の取締役であつた原告義夫、訴外利基及び訴外山香哲雄の三名の共有に属するものというべきところ、これについて訴外利基が株主の権利を行使すべき者に指定された旨の主張・立証はないから、被告会社が結局本件決議において訴外利基が本件新株四万株のうち右の三万八四〇〇株について議決権の行使を認めたことは違法といわざるをえない。

4  そうすると、仮に本件総会に出席した訴外利基以外の株主の議決権行使が適法であるとしても、本件決議は訴外利基が株主であることについて当事者間に争いのない二六〇〇株及び他の出席株主の株式九〇〇〇株合計一一万一六〇〇株の株式を有する株主が出席しその賛成により議決されたものにすぎず、被告会社の発行済株式総数が八万株であることにかんがみると、本件決議は法律上その存在を認めることはできないというべきである。

5  〈省略〉

6  〈省略〉

六以上の次第で、原告義夫の本訴各請求は、被告会社に対し、同原告が被告会社の株式一〇〇〇株の株主であること及び本件決議が存在しないことの各確認を求める範囲で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、原告洋一の本訴請求は失当であるから棄却することとして、訴訟費用の負担について民訴法九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(山口和男 長野益三 渡辺等)

〈別表及び別紙、省略〉

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